p.7 [2]の訳

 ある山寺の坊主はけちで欲張りであったが,飴を作ってただ一人で食べていた。(坊主は飴を)ぬかりなく管理して,棚に置いていたのを,一人いた小さい児に食べさせないで,「これは人が食べると死ぬ物だ」と言ったのを,この児は,「なんとかして食べてみたい」と思っていたので,坊主がよそに行っている間に,棚から(飴を)取り下ろしたときに,ちょっとこぼして,小袖にも髪にもつけてしまった。ふだん欲しいと思っていたので,二,三杯たらふく食べて,坊主の秘蔵の水瓶を,軒先の雨の落ちてあたる石に打ち当てて,割っておいた。坊主が帰ったところ,この児がさめざめと泣いている。「どうして泣くのだ」と尋ねると,「大切な御水瓶を,誤って割ってしまったときに,どれほどのご処罰があるであろうかと,情けなく思われて,この命生きていてもしかたがないと思って,人が食べれば死ぬとおしゃっておられた物を,一杯食べても死なず,二,三杯まで食べましたがさっぱり死にません。ついには小袖につけ,髪につけてみましたが,まだ死にません」と言った。飴は食べられて,(そのうえ)水瓶は割られてしまった。けちの坊主は得るところがない。児の知恵がはなはだしく勝っていたということである。
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