p.12 [1]の訳

 昔からの賢人なども,故郷は,忘れ難いものに思われるということである。ましてや私の今は,四十歳の初老の歳も四年も過ぎて,何ごとにつけても昔懐かしいままに,兄弟たちの大変年老いているのも,そのままにして置くことができなくて,初冬の空がしぐれる頃から江戸を立って,雪の降る日や霜を置く寒い日を何日も旅を重ねて,やっと12月の末,伊賀の山中の故郷に着いた。なお父母が生きておられたならと,私を慈しんでいただいた昔を懐かしく思うと悲しく,いろいろと思うことが多くあって,
「故郷というのは,とても恋しく懐かしいものである。自分のへその緒を見せられ,亡き父母の事が恋しく思い泣く四十四歳の年の暮れなのである」
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