p.15 [2]の訳

 宇治殿(藤原頼通のこと)が,四条の大納言卿(藤原公任のこと)と,春秋の花でどれが勝っているかを論じられた。「春はさくらを第一とする。秋は菊を第一とする」と,宇治殿がおっしゃったので,大納言が,「梅の花がございますからには,桜の花が第一というのはいかがでございましょうか」と申し上げると,梅と桜との議論になり,そのほかの花の優劣は後回しになった。大納言は,おそれをなして,強くは主張は申されなかったものの,「やはり春の早朝に咲く紅梅の優美な色合いは捨てがいたいものがあります」と申し上げたのは,殊勝なことでございました。
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