p.16 [2]の訳

 金子十郎家忠は,まっ先に進んで戦った。矢もみな射尽くし,弓も折れて捨てた。太刀も折れ,折れた太刀だけをひっさげて,ああ,味方がいてほしいものだ,太刀をもらいたいものだと思っているところに,足立右馬允遠元が出てくる。「ご覧ください,足立殿。太刀が折れてしまいました。代わりの太刀がありましたらお与えください」と言う。「代わりの太刀はないけれども,あなたのお願いが感心なので」と,先頭を馬で進ませていた家来の太刀を取って,金子に与えた。(家忠は)大いに喜んで,敵を数多くうちとってしまった。(太刀を取られた)足立の家来が申し上げるには,「日頃の心をご覧になって,何の役にも立ちそうにないものだとお思いになったからこそ,このようないくさの中で太刀をお取りになったのでしょう。お供をして何になりましょう」と,主を恨んで別れてしまった。足立は,「しばらく待て。言うことがある」と言って,駆け出した。敵の一騎が出てきたので,自分も名乗らず,相手にも名乗らせずに,弓を十分に引き絞ってぴゅっと射ると,(矢が)かぶとの内側にしっかりと突き刺さった。(敵が)馬から落ちたので,自分も馬から飛び降り,敵の太刀を取って引き返し,家来に並んで「お前はせっかちに恨んだことだ。それ,太刀だ」と言って取らせ,前方へ駆けて行かれた。
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