p.27 [2]の訳

 有名な木のぼりの名人と言われた男が,人をさしずして,高い木に登らせて梢を切らせたときに,たいへん危なく見えた間は何も言わないで,降りるときに,軒の高さぐらいになって,「失敗するな。注意して降りなさい」と,言葉をかけましたところ,「このぐら(の高さ)になっては,飛び降りてもきっと降りられるでしょう。どうしてそんなことを言うのですか」と申し上げましたところ,「いや,そのことでござますよ。目がくらくらして,枝が(折れそうで)危ない間は,自分自身が恐れておりますので,申し上げません。失敗は易しいところになって,必ずしでかすものです」と言う。
 いやしい,身分の低い者ではあるが,聖人の教えに合っている。蹴鞠でも,難しいところをうまく蹴りあげた後で,簡単だと思えば,(蹴りそこなって)必ず落ちるとか申すそうであります。
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