p.29 [2]の訳

 たいした用件がなくて人のもとへ行くのは,よくないことである。用件があって行ったとしても,それが済んだら,さっさと帰るべきだ。長居しているのは,とてもうっとうしい。
 他人と対していると,言葉数が多くなり,からだも疲れ,心も平静でなくなる。いろいろの用事にさしつかえが出て時間をむだにするのは,互いの利益にならない。いやそうに客に向かって話すのも,よくない。気のりしないときは,かえって,そのわけを言ってしまった方がよい。ただ,こちらも相手と同じ気持ちで対座したいと思うような人が,所在なくて,「もうしばらくおいで下さい。今日はゆっくり落ちついて話し合いましょう」などと言う場合は,この限りではないだろう。あの阮籍が,好きな客には青い目つきで迎えたということは,だれにでもありそうなことである。
 これという用件もないのに,人がやってきて,のんびりと物語をして帰るのは,とてもよいことだ。また,便りも,「長らくご無沙汰しておりましたので」などぐらいに書いてよこしたのは,とてもうれしいものである。
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