p.34 [1]の訳

 寛平の歌合わせの折に「初雁」という題を,紀友則が
「春霞のかすむかなたに飛び去っていった雁が今鳴いているようだ。この秋霧が立ちこめた空の上で」
と詠んだ。
 友則は左の組であったが,初めの五文字を詠み始めたとき,(秋のものである「初雁」を詠むのに「春霞」と詠み出したので,)右方の人々は残らず笑った。そうして,次の句で,「かすみていにし」と言ったときには,声一つ出なくなってしまったのだった。聞き終わらないうちに大騒ぎして笑うことは,あってはならないことだ。
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