p.35 [2]の訳

 能因入道が,伊予の守・実綱に伴って,任地の伊予国に下ったのであるが,夏の初めに日照りが長く続いて,民の嘆きは深く,神は和歌に心動かされなさるものである。ためしに歌を詠んで,三島の神にさしあげるのがよい,ということを,国司の実綱がしきりに(能因に)勧めたので,
「天の川の水を,苗代のための水として,せきを切って流してください。神は『天くだり』なさったはずですから,さあ,神よ,神ならば,『雨くだる』ようになさってください」
と詠んだ歌を,神にささげる幣帛(へいはく)に書いて,神主にたのんで,神に申し上げたところ,乾ききっていた空が急にいちめんに曇って,大雨が降って,枯れていた稲葉がすべて青々した色に戻ったのであった。
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