p.36 [2]の訳

 十七日,月を隠している雲がなくなって,夜明け前の月夜のようすがとても美しいので,出航して漕ぎ進んだ。このとき,雲の上も海の底も,月が同じように照り輝いている。なるほどなあ,昔の男は,「棹はつきさす波の上の月を。船はおさえつけて進む海のうちの天を」と言ったのであろう。(これは私が,)聞きかじりに聞いたのである。また,ある人が詠んだ歌は,
「水底に映った月の上を漕いで行く船の棹にからむのは,月に生えているという桂のようである」 これを聞いて,別の人がまた詠んだのは,
「海に映っている月の姿を見ると,波の底にある空を漕ぎ渡る私こそ心細いものだ」
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