p.42 [1]の訳

 部下の何がしという者が町奉行になられたとき,堀田筑前守殿が「絶対に相手にならないようになさいませよ」と申し上げたが,何がしはそのときは合点がいかなかったが,訴訟を扱うようになって,始めて納得したとおっしゃられたとか。訴訟を聞くのは公務とはいえ,悪い行いと思い,不快だと思えば,必ず相手に私的な感情をさしはさんでしまうようになるものである。自分の言葉がきつくなれば,裁かれる人は恐ろしがって十分自分の意見を述べきれないで,必ず片方の意見しか聞かないようになり,裁きが公平でなくなる。相手になるなとおっしゃられたのはすぐれた格言であると,子孫にも言い置かれたということである。
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