p.42 [2]の訳

 丹波に出雲という所がある。出雲大社の分霊を移して,(社殿を)立派に造ってある。志太なにがしという人の支配している土地なので,秋の頃,(志太なにがしという人が)聖海上人や,その他の人も,人をたくさん誘って,「さあ,いらっしゃい,出雲を拝みに。ぼたもちでもごごちそうしましょう」と言って,みんなを連れて行ったところ,それぞれ参拝して,大いに信仰心をおこしたことだった。社の拝殿の前にすえられていた獅子・狛犬が,背を向けて,後ろ向きに立っていたので,上人はたいそう感動して,「さてもさてもすばらしい。この獅子の立ち方は,たいそう珍しい。深いわけがあるのだろう」と涙ぐんで,「何と皆さん,このすばらしいことにお目がとまりませんか,それはあんまりです」と言ったので,それぞれ不思議に思って,「本当に他と異なるなあ。都へのみやげ話にしましょう」などと言うと,上人はいっそう知りたがって,年配で分別ありげな神官を呼んで,「このお社の獅子の据え方は,きっといわれのあることでございましょう。少しお聞きしたいものです」とおっしゃったところ,「そのことでございる。いたずらな子どもたちがいたしましたことです。けしからぬことでござる」と言って,近寄って,(獅子・狛犬をもとのように)置き直して行ってしまったので,上人の感動の涙はむだになってしまった。
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