p.44 [2]の訳

 源氏の兵たちは,すでに平家の舟に乗り移ったので,水手や梶取たちは,(弓で)射殺され,切り殺されて,(船の進路を)正すことはできず,舟底に倒れ伏してしまった。新中納言知盛卿は,小船に乗って御所の御舟に参上し,「世の中の情勢はいよいよ最後かと思われます。見苦しいような物などはすべて海へお入れください」と言って,船尾船首を走り回り,掃いたり,拭いたり,塵を拾い,ご自身でお掃除なされた。女房たちは,「中納言殿,戦いはどのように,どのように」と口々にお尋ねになったので,「めずらしい関東の男をごらんになれることでしょう」と言って,からからとお笑いになった。
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